ブルックナー/メモランダム⑦ーK.テンシュテット

 K.テンシュテット(Klaus Tennstedt)について個人的な思い出を書きます。テンシュテットの名前を意識したのは1982年頃でした。その頃、福岡に転勤し、NHKーFMで彼のマーラーの2番、9番、ベートーヴェンの3番そしてブルックナーの8番を集中的に聴き、すっかりその演奏の虜になりました。
 テンシュテットは、若き日から東独で頭角をあらわしますが、冷戦下、当時の「東側」の音楽家は日本では一部を除き厚いベールに包まれていました。テンシュテットもその一人であり、「西側」に亡命してはじめてマスメディアに登場します。 
 「1926年生(東独メスセベルクにて)当年57歳。常任についたのは71年。さして有名とも思われないキール市立歌劇場。時に45歳。広く世界に知られたのは74年ボストン響を振ってからと言われる。その後、北ドイツ放送響の常任をへて83年9月からロンドンフィル常任決定とのこと。遅咲きの花。しかし、この花、大輪であると思う」(1983年1月4日のメモ)。
 
 そのテンシュテットのライブを聴く機会が訪れます。1984年の来日公演は、ウイークデーは全く時間がとれず、休日に横浜に赴きブラームスを聴きました。自分自身のなかで脹らんでいた期待が大きすぎたためか、帰路いささかの失望を禁じ得ませんでした。いまに生きるフルトヴェングラーの「再来」を暗に求めていたからかも知れません。 
 86ー87年のドイツ滞在中、街中で手軽に手に入ることからテンシュテットのカセットテープをもとめ、繰り返し耳を傾けました。フルトヴェングラーでもクナッパーツブッシュでもない彼独自の演奏に再度、深く魅了されました。87年3月帰国直前にフランクフルトでコンサートの予定があり、なんとかチケットを入手し胸を躍らせましたが、彼の体調不良で直前にキャンセルとなりました。これでもう、ライブで聴けることはないだろうと無念な思いをしました。
 
 しかし日本でその機会が訪れます。1988年10月18日サントリーホール、23日昭和女子大学一見記念講堂で、再度、ワグナー、ベートーヴェンを聴くことができました。84年の来日ではブルックナーの4番の演奏がありましたが、今回は残念ながらブルックナーはプログラム外でした。
 
 「ワグナーの音楽の劇的な高ぶりや沈潜する暗い情熱ー直情的ながら時に解釈の難しい精神性の吐露などがチラチラと見え隠れする・・。そんな演奏であり、テンシュテット自身の『解釈』が前面には出ず、しかも火のように燃えるオケの音響が一つのワグナー像を浮き彫りにしていく。しかし、アクが強いという感じはなくそれが素直に伝わってくる気がする。稀有な演奏であった。テンシュテットの長身な、しかし無骨で田舎くさい身のこなしと、何とも滋味をたたえた笑顔が印象的である。この巨匠の健康を心から祈念したい」(1988年10月18日のメモ)
 
 Syuzo’s Homepageというテンシュテット・ファンにはとても有り難い充実したデータベースがあります(その後のテンシュテットの動静などは、是非、こちらをご覧下さいhttp://www.syuzo.com/index-j.html)。テンシュテットに関してSyuzo氏の見解にはなるほどと同感することが多く、また、氏はクナッパーツブッシュにも造詣が深いことからブルックナー演奏についても、その研鑽に心底感服します。
 よってあくまでも贅言ですが、私がテンシュテットに感じる魅力は、 自由度の高さを感じさせる曲づくりのなか、流列のはっきりした音楽が豊かに奏でられる一方、それが時に大きく奔流する爽快感です。この「感じ」は20世紀初頭の巨匠時代を彷彿とさせる一方で、彼の演奏にはお仕着せがましさといったものが全くありません。虚心で素直に聴け、しかも聴衆に対して大きな包容力があります。この特質はブルックナー演奏にも遺憾なく発揮されています。その意味で、マーラーファンのみならず、ブルックナー好きにも是非、手にとっていただきたいと思います。
 
<コンサート記録>
1984年4月8日:ロンドン・フィル/神奈川県民ホール
◆ワーグナー/マイスタージンガー、第1幕への前奏曲
◆モーツァルト/交響曲第35番
◆ブラームス/交響曲第4番
 
1988年10月18日:ロンドン・フィル/サントリーホール
◆ワーグナー/タンホイザー、序曲とヴェヌベルクの音楽
◆ワーグナー/リエンチ、序曲
◆ワーグナー/神々の黄昏、ジークフリートのラインの旅
◆ワーグナー/神々の黄昏、ジークフリートの葬送行進曲
◆ワーグナー/マイスタージンガー、第1幕への前奏曲
 
1988年10月23日:ロンドン・フィル/昭和女子大人見記念講堂
◆ベートーヴェン/エグモント、序曲
◆Rシュトラウス/ドン・ファン
◆ベートーヴェン/交響曲第3番
広告
カテゴリー: 名指揮者 パーマリンク

ブルックナー/メモランダム⑦ーK.テンシュテット への4件のフィードバック

  1. ピンバック: ブルックナー//メモランダムⅥ⑥ ブルックナー 最近の注目盤から 1 | ブルックナー・ブログ

  2. ピンバック: ブルックナー//メモランダムⅥ⑥ HMV最近の注目盤から 1 | ブルックナー・ブログ

  3. ピンバック: ブルックナー//メモランダムⅥ⑥ HMV最近の注目盤から 1 | ブルックナー・ブログ

  4. ピンバック: ブルックナー//メモランダムⅥ⑥ HMV最近の注目盤から 1 テンシュテット、ゲーゲル、ジュリーニ | ブルックナー・ブログ

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中