ブルックナー/メモランダムⅢ③ーR.ワーグナー(3)

 ブルックナーが建設途上のバイロイトを訪問した際のエピソードは、彼が第3シンフォニーをワーグナーに献呈した経緯とともに有名です。祝祭歌劇場の建設現場の見学に思わず夢中になり彼はワーグナーを往訪する時間に遅れてしまいます。その夜、ワーグナーから酒をすすめられて、巨匠に会った極度の緊張感も加わってかブルックナーは不覚にも酩酊し、翌日、ワーグナーが第2番を所望したのか第3番だったか、宿酔の彼はこんな「人生の大事」が思い出せません。ブルックナーは同席者から当夜の会話を確認のうえ、ワーグナーに手紙でお伺いを立てます。その手紙を受け取ったワーグナーは名うての対人交渉上手、ドジなブルックナーの振る舞いに驚く一方で、苦笑を禁じ得なかったのではないでしょうか。同様な失敗にはいまだ事欠かない呑み助の小生などは、ブルックナーに共感こそすれ到底、非議できる立場にはありません。微笑ましい挿話だと思います。

 
 ブルックナーのワーグナーとのコンタクト状況をピックアップすれば、以下のようになります。※1

年代(ブルックナーの年齢)    主要事項                   <場所>                 


1863年(39歳)   タンホイザーを聞く                     <リンツ>  

1864年(40歳)   ローエングリンを聞く                    <リンツ>      


1865年(41歳)   ワーグナーとはじめて会う                 <ミュンヘン> 
             トリスタンとイゾルデの第3回上演を聞く        <同上> 
             さまよえるオランダ人を聞く               <リンツ> 

1868年(44歳)   マイスタージンガーの終結部合唱初演        <フロージン> 
             マイスタージンガー初演を聞く             <ミュンヘン>           

1873年(49歳)   第3シンフォニー:ワーグナーが献呈受諾        <バイロイト>
            アカデミー・ワーグナー協会入会             <ウイーン>  

1874年(50歳)  第3シンフォニーの献呈      


1875年(51歳)  ワーグナーのウイーン訪問で会う             <ウイーン>     


1876年(52歳)  ニーベルングの指輪初演を聞く              <バイロイト>  


1882年(58歳)  パルジファル初演を聞く                  <バイロイト>   


1883年(59歳)  ワーグナー没                        <ウイーン> 

            バイロイト訪問                       <バイロイト> 


1884年(60歳)  ワーグナー協会名誉会員になる             <ウイーン>

            バイロイト訪問                       <バイロイト>    


 ブルックナーにとって、バイロイト詣でを含め、ワーグナーとの関係がいかに大切であったかがわかります。また、マイスタージンガーの終結部の合唱の初演は全曲の初演に先だってワーグナーが特別に許可したもので、ブルックナーにとってはワーグナーからの信頼を勝ち得た証でもあり、大変喜んだことでしょう。※2

 マイスタージンガーは、ブルックナーにとって尊敬するワーグナーに対して名誉ある役目を果たしたという「歴史的な意味」において、他のワーグナーの作品とは異なった重みがあると思います。

 

※1:土田前掲書(メモランダム⑥の1)年表および『音楽の手帖ブルックナー』巻末の詳細年表を参照、※2は同p.87他を参照。

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