ブルックナー/メモランダムⅦ② ーG.セル

 G.セル(George Szell)がドレスデン国立歌劇場管弦楽団を振ったブルックナーの第3番、同様にウイーン・フィルとの共演の第7番をかけながら書いている。前者は1965年、後者は1968年にいずれもザルツブルク音楽祭におけるライブ録音(モノラル)である。

 セルの30代前半までのスターダムを駆け上るような活躍は眩しくきらきらと輝いている。モーツアルトの再来と言われ幼児からピアノの才能が開花し、その後作曲、指揮双方を学ぶ一方、リヒャルト・シュトラウスに認められてアシスタント指揮者となり、1917年に彼の推薦により20歳にしてクレンペラーの後任としてストラスブルク市立歌劇場指揮者に就任、さらに1924ー29年にはベルリン国立歌劇場首席指揮者、1927年からは弱冠30歳ながらベルリン高等音楽院の指揮科教授を兼任する。凄すぎるサクセス・ストーリーである。

 

 しかし、ここから少し不思議な転回がはじまる。1929年プラハ歌劇場音楽監督に就任(ないし転出)。1937ー39年グラスゴーのスコットランド管弦楽団指揮者となる一方、オーストラリア客演から第二次世界大戦の勃発をうけて急遽米国へ向かう。その後、1946年クリーヴランド管弦楽団の常任となるが、1929ー1946年までの17年(セル32歳から49歳)の戦中・戦後はそれ以前との燦然とかがやくキャリアとの比較においては活動停滞期とも言える。

 また、渡米後もNBC交響楽団やメトロポリタン歌劇場に客演するとはいえ、全米ニ流どころのクリーヴランド管弦楽団を全米トップに育てあげるまで、さらに15年を要することになる。1962年ニューヨークのリンカーン・センターのこけら落としでボストン(ラインスドルフ)、フィラデルフィア(オーマンディ)、ニューヨーク(バーンスタイン)そしてクリーヴランドの各オケが競演した際、ニューヨークのうるさがたの批評家達はクリーヴランドを最も高く評価したのである。当時、セルは65歳になっていた。上記のブルックナーの演奏はその後のものだが、セルは1949年以降、ザルツブルク音楽祭へはたびたび客演を重ねている。
 三浦淳史『演奏家 ショート・ショート』(1983年 音楽之友社)に「常に正しい人セル」という名エッセイがある。トスカニーニ率いるNBC交響楽団にセルが客演した際、ベートーヴェンの2番のリハーサルで、セルが解剖学的にあまりに厳格にパート毎に練習をつけるので、トスカニーニが激怒する下りが面白いが、セルの音楽の方法論の一端を覗くことができるエピソードである。
 1960年代後半、アメリカのオケの鎬を削る競争ぶりは大変なもので、バーンスタイン/ニューヨーク・フィル、オーマンデイ/フィラデルフィア管弦楽団に、シカゴとボストンの有力交響楽団、そしてセル/クリーヴランド管弦楽団の5大オケ競演の時代で、それに若きメータ率いるロスアンジェルス交響楽団などが急追するという構図にあった。前述のように、そのなかにあって一頭群を抜いていたのがセル/クリーヴランド管弦楽団だった。

 『指揮者のすべて』(1968年レコード芸術臨時増刊号)で中村洪介氏はアメリカのオケを分析しつつ、クリーヴランド管弦楽団のくだりにこう書いた。「筆者の主観的見解では、このオーケストラは掛け値なく全米随一、世界でも稀有の交響楽団である。レコード評で、冷たいとか客観的過ぎるとか書かれた文も読んだが、実演に接した時には、その温かさ、まろやかさ、真にヒューマンな演奏に、涙を抑え切れなかった経験がある」(p.243,p.300)。

 完璧なまでのオーケストラ操舵ー透明度の高い完全なアンサンブル、管弦の均衡ある展開、基本的に一定かつ軽快なスピード感ーはいま聴いても、いやデジタル化の只中のいま聴くからこそ心地よく、古さを全く感じさせない。

1970年5月22日(金)東京文化会館、セル/クリーヴランド管弦楽団の来日公演を聴いた。最後は稚拙な感想文。当時16歳だった。
 
 ゛ジョージ・セルの演奏は非常に理性的である。感情表出をけっして強調しない。しかし、それによって一般に言われるように冷たい、生気ない音楽をつくるのではない。確かにクリーヴランドは冷徹ともいえる完璧なアンサンブルを有している。これは動かしがたい事実である。だが彼らの演奏は音楽自体に、そして彼らのリーダー、ジョージ・セルに対して忠実であることを感じさせる。指揮者の意図があれほど完全にオーケストラに伝達され、楽員一人一人がそれをマスターしている。巨匠セルの音楽観が本当に聴衆を納得させるような演奏を行う。これこそオーケストラ芸術とも言うべきものであろう。゛
 
<コンサートの記録>
1970年5月22日:東京文化会館

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