ブルックナー//メモランダムⅣ⑤ーブルックナー指揮者論

A: ブルックナー指揮者のなかで、ぼくはベイヌムが好きだ。もともとクラシック音楽の聴き始めの頃、NHKのFMで「メンゲンベルクの芸術」といった特集があって、古い録音だがアムステルダム・コンセルトヘボウの演奏を耳にした。このなかには、ブルックナーはなかったが、このオーケストラの柔らかい音色には魅力を感じた。特に、ドイツ滞在時代、実際に、コンセルトヘボウのホールで聴いた時に、「ああこのホールだから名演が紡ぎ出されるんだな」と実感した。
 
ベイヌムの交響曲第8番 
ブルックナー:交響曲第8番
 
B: それでベイヌムを聴くことになったということ?
 
A: いやいやそうじゃないんだ。まずは、ヨッフムとコンセルトヘボウのライブでベートーヴェン他を聴いて感動した。その後、ヨッフムでブルックナーを聴くようになって、5番の1964年3月30日、31日にOttobreuren Abbeyでのライブ盤に接する。やはり、この組み合わせは凄いなあと思って、その派生系で、つまり、ヨッフムから遡って、ベイヌムに行きつくという流れだった。
 
ヨッフムの交響曲第5番 
ブルックナー:交響曲第5番(紙ジャケット仕様)
 
C: Ottobreuren Abbeyでのヨッフム盤はいい。ヨッフム最高のブルックナー遺産のひとつだろう。でも、ベイヌムの演奏とはだいぶ違う印象ではないかな。
 
A: そのとおり。共通点もあるが、演奏へのアプローチでは、ベイヌムを聴いてヨッフムとの違いは明らかだ。ぼくがベイヌムを好むのは、うまく言えないが、いい意味で肩肘を張らない自然体の演奏スタイルにあるかも知れない。国際ブルックナー協会会長として、ブルックナーの「最高権威」的なヨッフムの解釈とは違い、ブルックナーでも、名演の誉れ高いベルリオーズでも、ベイヌムの楽曲アプローチのセンスの良さに惹かれる。
 
C: いわゆるブルックナー指揮者というと、語弊があるかも知れないが、日本で有名なのはヴァントチェリビダッケレーグナーマタチッチプロムシュテット、スクロヴァチェフスキなどがいるね。日本公演でライヴに接した評論家やリスナーが絶賛して、これが根強い人気を博していく。「伝説の録音」、「畢生の名演」というやつだ。そうすると、ベイヌムのように、日本の聴衆に馴染みのない指揮者はあまり注目される機会がないということにもなる。
 
A: ベイヌムは実にレパートリーが広く、自身はブルックナー指揮者といった意識はなかったかも知れない。でも、いま残されている音源を聴くと、あまりに雑な録音の交響曲4番を除き、5,7,8,9番いずれも水準の高い名演だと思う。
 
B: ぼくは、プロ・ドイツ派というか、ワーグナーもブルックナーも得意といった指揮者グループがあると思う。両者の共通点、異質点は別として、バイロイトで旗揚げといった感じかな。このグループでは、フルトヴェングラークナッパーツブッシュベームカラヤンカイルベルトショルティブーレーズ、地味だがホルストシュタインなどがいるね。ホルストシュタインではバイロイトでマイスタージンガーを、そしてハンブルクの教会でブラームスのドイツレクイエムを聴いたが職人肌ながら実に手堅く見事な演奏だった。日本での評価が低すぎる一人と思うな。
 
ホルストシュタインの交響曲第2番 
ブルックナー:交響曲第2番
 
C: バイロイトとの短絡的な結びつきはどうかな?戦前は歌劇場指揮者からスタートして、ドイツの場合、ワーグナーはいわば定番だからね。マーラーだって若い頃はカッセルで振っていたしね。長いものを上手に飽きさせないで聴かせるテクニックは、ブルックナーの長大音楽向けにも生かせるということもある。他にも、バイロイト指揮者ではマゼールバレンボイムシノーポリもいるし、ヨッフムやマタチッチも確かバイロイトには出ていただろう。
 
B: バイロイトは多くの指揮者が登壇しているから、「一限さん」的な人は除くとして、「指輪」を振った指揮者といった括りでもいいが、ある程度共通項は見いだせるのではないかなと思う。あとは、先程のコンセルトヘボウではないが、オーケストラ単位で見ていくこともできる。ウイーン・フィル、ベルリン・フィル、ドレスデン、バイエルン、そしてミュンヘン・フィルなんかの伝統はあるし、ドイツでのブルックナー受容の厚みはやはり違いがあると思うよ
 
A: バイエルンで思い出したのだけれど、ベイヌムで欠落している番数を埋めるという意味でも、クーベリックにも、もっと注目していいと思う。交響曲第3番は名演と思う。
 
クーベリックの交響曲第3番 
ブルックナー:交響曲第3番
 
B: クーベリックは4番もいいね。プロ・ドイツ派以外でもクーベリックだけではなく、マタチッチもいるし、ショルティ、セルドホナーニほかハンガリアン・ファミリーやムラヴィンスキーロジェストヴェンスキーら旧ロシアもいる。日本でも朝比奈隆若杉弘ほか若手も、先人の拓いた輝かしい道を継承している。
 
C: どうも、ブルックナーを中心に考えると、そうした人々が、ドイツ以外のあたかも「ブルックナー音楽使徒」的に映るが、事実はそうではないだろう。先程のバイロイトとブルックナーのやや恣意的な連関性と同じく、むしろこうした人達は、クラシック音楽のメインストリームたるドイツ・オーストリー系についても確たるレパートリーとしており、ブルックナーもそのひとつと客観的にみるべきではないかな。
 
A: いままで出てこなかった名前で、ぼくが好きなのはテンシュテットケンペコンビチュニーアーベントロートら旧東ドイツ組だ。マズアもその系譜かな。ベイヌム、クーベリックとはひと味も二味も違う音楽づくりだけれど、いずれも古き良きドイツらしさをたたえた魅力がある。ぼくは、このなかでもテンシュテットのある意味、縦横無尽の音の奔流が好きだ。
 
テンシュテットの交響曲第4番 
ブルックナー:交響曲第4番
 
B: 意外と面白いと思うのは7番で、トスカニーニミュンシュ小澤征爾が録音しているね。小澤征爾の先生がミュンシュ、ミュンシュの先生がトスカニーニという関係では、7番は「口伝の演目」であったかも・・・と考えるのも楽しい。イタリア系では、先のシノーポリのほか、ジュリーニシャイーなどがいる。ムーティエの録音もあるね。彼の演奏では、東京で聴いたヴェルディのレクエイムの劇的表現力はなかなかのものだった。
 
 ミュンシュの交響曲第7番 
ミュンシュ指揮ボストン響 モーツァルト ブルックナー
 
C: 7番はブルックナーのシンフォニーのなかでも完成度が高い。演奏時間も程良いと思う。8番だとコンサートでも1曲のみのコースになりがちだが、その点でも7番びいきがいても不思議はない。他にもラトルヤンソンスサー・コリンズ・デイヴィスなども録音があるし、4番とともに取り上げられる機会が多い。オーケストラ別には、フランクフルト放送響もあるんじゃないか。インバル、そして新進ではヤルヴィもいる。
 
B: インバルからの連想では、マーラーを得意とする指揮者のブルックナー解釈というアプローチもあるように思う。ワルタークレンペラーバーンスタイン、シノーポリそしてテンシュテットなどでは両者の聞き比べが興味深いね。
 
A: 最後に、サヴァリッシュノイマン、この二人の交響曲第1番は聞きものだと思う。そしてさきほども出てきたけれど、朝比奈隆をあげておこうかな。日本にいると当たり前、また来日しすぎると有り難さが薄れるが、サヴァリッシュはドイツでは堂々の大家だよね。朝比奈隆も国際的にみて、素晴らしい成果を上げている。中国で朝比奈が良く聴かれているのは隣人としてとても嬉しいね。
 
サヴァリッシュの交響曲第1番
Bruckner: Symphony No.1
 
朝比奈隆の交響曲第9番、テ・デウム
ブルックナー / 交響曲第9番&テ・デウム
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