ブルックナー/メモランダム②ー大家の居眠り

 吉田秀和『私の好きな曲』(初出1977年、文庫版1985年 新潮文庫)においてはブルックナー第9番が取り上げられています。そこではブルックナーの良さは端的に次のように語られます。
 
 「音楽のクライマックスが緊張の絶頂であると同時に、大きな、底知れないほど深い解決のやすらぎであるということ。その点でまず、彼は比類のない音楽を書いたーーと私は考える」(p.158)
 
  この所論は先の「ブルックナー/メモランダム①」で書いた吉田秀和氏のブルックナー解釈がさらに進展しており感心しますが、一方、氏がザルツブルク音楽祭でクナッパーツブッシュ/ウイーンフィルの第7番のライブを聴いてはからずも居眠りをしてしまったエピソードが①同様、まことに率直に(しかし少し悔しげに)語られており、これは吉田流スコア解釈の難しい部分の記述に対して、実に微笑ましく親近感をもって読める部分だと思います。なぜならば、大音楽評論家ですらそうであるように、私自身、大枚を払って時間に追われて意気込んでいったブルックナーのコンサートで、駆けつける前の疲労も手伝って同様な経験を何度もしているからです。
 なお、吉田氏は後期の3曲のほか、本著では3番を特に高く評価していますが、このあたりが好きな向きにはブルックナー鑑賞の最良なテクストだと思います。
カテゴリー: 本・論考・インタビュー パーマリンク

コメントを残す