ブルックナー/メモランダムⅤ⑨ ー全集:E.ヨッフム(5)

 ヨッフム/ドレスデン国立管弦楽団で、ブルックナーの第9番のシンフォニーを聞きながら、キーボードを叩いています。録音は、1978年1月13-16日、ドレスデンのルカ教会での収録です。響きも美しく残響もあります。耳を傾けていて、「玲瓏」という言葉が思いつきます。
 最近、他の番数も聞いていてつとに感じることですが、ヨッフムの演奏は、水の流れにたとえると、緑陰からさす木漏れ日を浴びた清流のようです。通奏の「流れ」は、ブルックナー・パウゼでも残響効果でとぎれることがありません。ブルックナーらしいピチカートがリズムを刻む瞬間は、渓流で鮎が水面から元気に水飛沫をとばしてはねているような印象をうけます。ほの明るく瑞々しくも清潔感のある音楽です。
 その一方、tuttiでは整然とした強奏で迫ってきます。また、そうした時には大胆すぎるくらいのダイナミクスを提示します。テンポは一定で、全体のバランスは少しも崩れず見事な均衡を保ちます。全般に緩急の呼吸がブルックナーの音楽を生き生きとしたものにしています。自然の息遣いです。また、アッチェレランドやリトルダンドの使用は抑制的ですが、その一方、丁寧な反復繰り返しの過程で、オーケストラに、力を徐々に蓄積させていくような緊張感を注入し、このエネルギーは次にくる強奏で一気に放出させます。しかし、そうした強奏時でも音が荒れることはありません。
 こうしたヨッフムの演奏の特色は旧盤、新盤とも基本的に変わりません。したがって、ヨッフムのブルックナーに関して言えば、録音時点の差、共演するオーケストラの音色の違い、正式な録音かライブ盤かの相違はあっても、あとは好みの問題かも知れません。ブルックナーに関して、これだけ均質な演奏を約束してくれる指揮者はいないでしょう。
確固たる解釈に裏打ちされ、オーケストラにその意図を完全に伝えているがゆえのことでしょうが、大家の技倆をそこに感じます。
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