ブルックナー//メモランダムⅤ①ー関連本(1)

『クラシック音楽の系譜』 鳥影社 (1998/12) 

 
 本書のブラームスとブルックナーの書き分けは(あるいは翻訳は)実にクリアである。シューマンの2つの音楽性格が分裂して、「擬古典主義派」と「未来音楽派」ともいうべき派閥が生まれ対立する(p.149)。前者の正統的な継承者がブラームスであり、後者の中心人物がワーグナーであった。ブルックナーは、ワーグナーを信奉したことから「形式的に」後者に分類されるが、筆者は以下のように書く。
 
 「実際にはどちらの陣営にも属さない孤独ないわば『さびしい』存在であった。およそ人間としても芸術家としても、彼は驚くべき時代離れした存在であった。・・・啓蒙主義、革命、古典的人文主義からロマン主義へという倦むことなき人類の進歩の思想を掲げてきた一連のいわゆる『自由な思想家』たちとは無縁の唯一孤独の存在であった」(pp.155-156)
 
  そうした記述ののち、筆者はブルックナーを「『自由な創作芸術家』ではなく、音楽の役人のように見えるであろう」(同上)と言うが、これではちょっと気の毒な気もする。また、ブルックナーの交響曲を「キリスト教精神に基づく交響音楽」(p.157)と要約しているが、いささかステレオ・タイプ化しすぎた解釈であろう。
 
 もっとも、こうしたクラシック音楽の通史では、(古いものは特に)ブルックナーについての文章はわずかだが、著者はブラームスとブルックナーにほぼ均衡の割り当てを行っており、事実関係の要約もわかりやすい。その点では、ブルックナー・ファンにも得心のいくものであろう。
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